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『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』リュック・ベッソン監督 単独インタビュー

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『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』リュック・ベッソン監督 単独インタビュー

過去のことで戦い続ける限り未来はない

取材・文:編集部・石神恵美子

『レオン』『フィフス・エレメント』などの巨匠リュック・ベッソン監督が、少年時代から愛読していたSFコミック「ヴァレリアン」を待望の映画化。28世紀の銀河をパトロールするスペシャルエージェントのヴァレリアン(デイン・デハーン)とローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)が、全宇宙の存亡を揺るがす陰謀に立ち向かうさまを最新鋭の映像技術で色鮮やかに描き出した。長年の夢であった本作を完成させたベッソン監督が、ユニークな製作過程を振り返るとともに、本作に込めた思いを語った。

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少年時代に恋に落ちたヒロイン

リュック・ベッソン監督

Q:少年時代から大ファンだったという原作コミックとの出会いについて教えてください。

「ピロット」という週刊誌で「ヴァレリアン」は毎週2ページずつの連載だった。その2ページを読むたびに、「オーマイゴッド! アメージング! 続きはどうなるんだ?」って。田舎に住んでいて、テレビもなかったし、コミックは僕にとっての現実逃避だったんだ。悪い奴をボコボコにしたかと思えば、エイリアンと友達になったり、そんなヒロインのローレリーヌに子どもながらに恋をしたよ。

Q:なぜ映画化までに長い年月がかかったのでしょうか?

二つ理由があって、一つは技術的問題だ。『アバター』(2009)まで待つしかなかった。二つ目は僕に監督としての十分な経験が必要だった。あとは勇気も。覚悟ができるまで待っていた。

Q:『アバター』のジェームズ・キャメロン監督からアドバイスをもらう機会はあったのですか。

僕も彼もダイバーで、20年来の古い知り合いなんだ。この映画をやりたいと思ったとき、彼に会いに行ったよ。とても親切で、アドバイスをたくさんくれた。『アバター』のセットにも招いてくれたんだ。素晴らしい人だよ。僕が思うに、偉大なアーティストは常に寛大だ。彼くらいのレベルになると自分に自信があるから、何事も恐れない。ちっぽけなアーティストほど、マネされたりすることを恐れて、分かち合うことをしないね。

Q:ずばり一番難しかったシーンはどこですか。

巨大市場のシーンだね。特殊効果だけでほぼ2年かかったよ(苦笑)。15分くらいのシーンなんだけど、6週間の撮影を行った。たくさんのキャラクターが登場するうえに、2層の世界から成っているシーンだったから、本当に大変だった。

原作者からまさかのサプライズ

リュック・ベッソン監督

Q:『フィフス・エレメント』製作時に、原作コミックの作画担当であるジャン=クロード・メジエールさんとすでにお仕事なさっていましたよね。

そのときに、彼から「どうしてこの映画をつくっているんだ。ヴァレリアンをつくるべきだろう!」って言われたんだよ。

Q:待望のヴァレリアン映画化で、メジエールさんと再びお仕事してみていかがでしたか。

彼は『フィフス・エレメント』のときよりよく働いてくれたよ(笑)。年を重ねて思い入れが強くなったからだろう。最初のころは、事あるごとに彼と原作のピエール・クリスタンに確認を取っていたんだ。原作者である彼らを尊重したかったから、同意を得て進めたかった。でもある日、クリスタンがこう言ったんだ。「リュック、君が僕たちのことを尊重してくれるのはありがたい。でも僕としては、君に驚かせてほしい」。僕がそれに驚いたよ。目の前が「ヒューー」って開かれた瞬間だった。彼は自由を与えてくれた。それは本当に素晴らしいことで、同時に彼の心はなんて若いんだって思った。80歳近くなのにそんなことを言えるなんて。

Q:完成した本作をお二人はご覧になりましたか?

もちろん。僕は巨大スクリーンがある劇場の特等席に2人だけを招いたんだ。そこで映画を見せたよ。彼らは何十年もヴァレリアンをスクリーンで観るのを心待ちにしていたから。涙を流し、とても幸せそうだった。

28世紀のクリーチャーたちはこうして生まれた

リュック・ベッソン監督

Q:巨匠たちとのコラボレーションの一方で、本作ではたくさん登場するクリーチャーのデザインを、SFファンから募ったそうですね。

自分でドローイングしなくて済むからね(笑)! 6,000枚ものポートフォリオを受け取り、その中から10人のアーティストを選んだんだ。1年目は脚本を彼らに与えなかった。ストーリーやキャラクターにとらわれてほしくなかったから、「僕たちは28世紀にいるぞ! さあ、創造してくれ!」とだけ伝えた。どういう世界なのか、だれが住んでいるのか、と想像をふくらませてほしかった。1年後、僕たちはクレイジーになっていたよ。50本分の映画をつくれるくらいのアイデアが浮かんでいたから。2年目には、それを脚本に盛り込めるだけ盛り込んだ。あまりにも素晴らしいアイデアばかりだったから、かなりタフな作業だった。20席しかないバスに、25人は乗せられないからね。

Q:パール人とその世界の美しさに圧倒されました。

担当したデザイナーには、何度も何度も考え直してもらったんだ。僕が満足するまでかなり時間がかかった。パール人はこの映画で“完全なるもの”を表しているからね。彼らは慎ましく、自然と調和しながら平和に暮らしている。彼らに敵は存在せず、男か女かもわからないようにほぼ性差がなく、完璧な存在なんだ。僕にとって彼らは、人間はこうあるべきという理想だ。文明化から何十世紀後に、僕たち人間はパール人のように平和であるべきだと思った。でも、実際はそうではない。劇中で人間がどうするかというと、完璧な存在である彼らを破壊しようとするんだ。

過去のことで戦い続ける限り未来はない

リュック・ベッソン監督

Q:監督の描くヒロインはいつも魅力的です。

僕はただ、僕が知っている女性というものを描いているだけだ。ジェームズ・ボンドは大好きだけど、子どものときにショックを受けた。なんでボンドの後ろにいる女は「おー、ジェームズ!」って泣きついているんだ? って。それを見てバカげてるって思った。そんな女性を実際に見たことがないから、これっぽっちもね。なんでそんな金髪のバカみたいな女を描くのか本当に理解できなかったよ。女性は身体的にはか弱いかもしれないけれど、とてもたくましい。日本に初めてやってきたときも、日本では男性がいつも前で、女性はその後ろを歩いていた。でも家庭では絶対にそうじゃないだろうなっていうのはわかっていた。日本の女性は「(女性的な声で)わー、ウフフ」みたいな感じでも、裏では男を手玉に取っているっていうのがぷんぷんしていたよ(笑)! だから、真の力を持つのに、パワフルであるというのを見せつける必要はないんだなと感じた。女性はそれをよく理解している。パワーは筋肉ではなく、心と頭脳だって。明らかに、女性は男性よりも大きな心と頭脳を持ち合わせていると思うね。

Q:東京は未来的な都市として世界的に認知されていると思います。未来を舞台にした本作で、日本から影響を受けたものはありますか。

直接的にはないと思う。というのも、28世紀には世界全体がメルティングポット(人種のるつぼ)になっていて、日本やフランスという概念がなくなっているんじゃないかな。黒人も黄色人も、白人もミックスされて、全てが一つに溶け合っているんじゃないかと思う。僕はそれを願っている。僕の妻は黒人で、この作品のプロデューサーでもあるんだけど、僕たちの子どもは言うならばキャラメル色の肌をしている。それが僕らの未来なんじゃないかな。全てが混ざり合ったとき、戦争をする必要はなくなると思うからね。

Q:監督のSF作品はどこかフェミニンさが漂うデザインが多い気がします。

デザインというよりアプローチじゃないかな。例えばアメリカのSFでは、エイリアンは敵だ。それはつまり、外からやってきたものは危険、だから戦争しなくてはという思考になる。そして我々を救ってくれる存在こそが、アメリカだ。「とんでもなくまずいことが起きている。でも、心配いらない。僕らが、君たちを未知のものから守ろう」って。そういう発想はマスキュリン(男性的)だと思う。でもヴァレリアンのアプローチは、最終的にどうやって共存するかを学ぶんだ。最終的にみんなが握手をする。インド人、日本人、中国人、アメリカ人、ロシア人に、宇宙からやってきた種族もだ。そういう物語の伝え方がフェミニンなのかもしれない。この物語は戦士を描いたものではないし、僕ら自身が最悪の敵なんだ。パール人は「あなたの最大の敵は、あなた自身だ」と言い放つ。どうやって過去と向き合って平和をつくるかを考えられなければ、そこに未来はない。実際に、僕たちが現在まで起こしてきた戦争を考えてごらん。全て過去が関わっている。宗教でも人種問題でも。過去のことで戦い続けている限り、僕らに未来はないと思う。


リュック・ベッソン監督

どんな質問をぶつけても、聞き入ってしまうほど興味深い答えを真摯に、ときにチャーミングに返してくれるベッソン監督。フランス映画史上最高額の製作費が注ぎ込まれたとされるだけに、本作の実現が容易でなかったことは簡単に想像がつく。「僕のDNA的にあきらめることなんてできなかった。この映画をやるか、死ぬかだった」。そんな鮮烈な言葉に心揺さぶられる。本作は紛れもなく、ベッソン監督の夢とロマンが詰まった作品だ。

(C) 2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は3月30日より全国公開

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