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岩井俊二監督×蒼井優『バンパイア』、自殺サイトが事件になり一時中断の製作秘話

第61回ベルリン国際映画祭

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岩井俊二監督-第61回ベルリン国際映画祭にて
岩井俊二監督-第61回ベルリン国際映画祭にて - Photo:Yukari Yamaguchi

 2月13日(現地時間)、第61回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で岩井俊二監督映画『バンパイア(原題)/Vampire』が上映された。登壇した岩井監督が、構想とそっくりな事件が実際に発生し、一時棚上げしたといういきさつを話してくれた。

 「2002年にこの同じパノラマのオープニングを飾った『リリィ・シュシュのすべて』は決して忘れません。おかえりなさい岩井俊二監督!」と大歓迎の紹介を受けた岩井監督は、英語と日本語を交えて質問に答えた。
 
 本作には、乙女の喉元に牙をたてるような暴力的吸血鬼は登場しない。自殺サイトで出会った女性を気遣いつつ血をもらおうとする生物教師が主人公だ。「1つは犯罪者と被害者が敵対ではない関係にあったらどうなるかというのがあって、吸血鬼に関しては学生時代に『インタビュー・ウィズ・バンパイア』みたいな感じのホラー映画を作ったことがあって、いつかは作りたかったのをミックスした形になります」と岩井監督は説明する。構想の経過について「かつてないアイディアと思って殺人者と自殺サイトの物語を書いている時に実際に日本でそんな事件が起きてしまった。しばらく書くのをやめていたのですが、一昨年くらい前に犯人を殺人犯というより血が欲しくてしょうがない人にしたらどうだろうと書き換えました」というから、図らずも構想が実際の事件を予見していたことになる。「日本では年間3万人位の人が自殺で亡くなっていて、孤独死のような悲しい事件も起きています。映画のやるべきことは、そこから目をそむけないことではないか、問題として考えるよりも、むしろ、そういう人たちのそばにいてあげる気持ちで共有することが大事ではないかと長年勉強しました」と映画人としてのアプローチを語る。

 ストーリー展開に重要な役割を果たす白くて丸い大きな風船が、夢の中のような情感も加えている。「吸血鬼というタイトルなので赤い血のイメージから遠ざけたかった。いわゆるバンパイアホラーとは違った作品でもあるし、最初から白い丸いものというイメージがあって、主人公の母親の拘束具に風船をつけることを思いついて、広がって映画全体のシンボルみたいになりました」と監督は説明する。終わったかに思わせた後の回想シーンについて「撮影中に思いついたシンボリックなシーンですが、彼のしたことが夢であってくれたらという同情にも似た気持ちがあったのかもしれません」という監督同様、殺人犯である主人公を救ってあげたい気持ちにさせる。自殺や殺人を扱いながら、恐怖より優しさが胸にしみる作品となっている。

 皮肉なことに、血を必要とする主人公からの輸血で助けられる教え子を、蒼井優が演じている。そのほかは全て海外キャストだ。「昔ミュージックビデオを作っていて、アメリカと、実はベルリンにも来ました。その時は英語もできなかったけど、すごく楽しかった。それで海外でも撮れたらいいなと思うようになりました」という全編英語の岩井映画は海外でも充分通用することを証明してみせた。監督のほか脚本、作曲、撮影、編集、プロデューサーまで務めた本作を「死にそうでした。自分で経験するのはいいことではあるけど、全部をそうやって作ろうとはしない方がいい」と苦労をにじませる。作品に大きな拍手を送った観客たちは、そのまま監督にサインを求める長だの列となった。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)

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