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柳楽優弥『誰も知らない』成功後の試練

柳楽優弥
柳楽優弥 - 写真:上野裕二

 スクリーンの中の柳楽優弥から、ますます目が離せなくなってきた。路上での殴り合いに情熱を燃やす青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)や人気コミックを実写化した『銀魂』シリーズ(2017・2018)など、振り切ったキャラクターに挑戦し、観客に強烈なインパクトを与えてきた。そんな柳楽が久々にナイーブな若者を演じているのが、彼を見いだした是枝裕和監督の愛弟子である広瀬奈々子監督の長編デビュー作『夜明け』だ。本作を通し、プレッシャーに悩まされた10代から、幅広い演技力を身につけ新たな支持層を獲得した現在までを振り返った。

【動画】柳楽優弥主演『夜明け』

 『誰も知らない』(2004)に主演した柳楽がカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したのは14歳のときだった。「天才子役」として一躍脚光を浴びるも、戸惑いもあったという。是枝監督の演出が独特だったためだ。『誰も知らない』の撮影現場では脚本は渡されず、柳楽は撮影現場での自然な感情そのままに少年を演じていた。それゆえのリアルな表情だった。カンヌ受賞後、タイプの異なるさまざまな監督たちの演出にすぐには対応できず、俳優として悩む時期があった。高校卒業後に飲食店でのアルバイトを経験し、また2012年には故・蜷川幸雄さん演出の「海辺のカフカ」で初舞台に取り組むなど、積極的に新しいことに挑戦し、人間としての幅を広げることに努めた。やがて主演ではなく助演という形で、アイヌの若者を演じた『許されざる者』(2013)やストーカー役の『闇金ウシジマくんpart2』(2014)などで存在感を見せるようになる。

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夜明け
映画『夜明け』より (C) 2019「夜明け」製作委員会

 「特別に大きな転換期があったわけじゃないんです。もっと演技がうまくなりたいという一心で、一つ一つ取り組んできた結果だと思います。アルバイトという形で演技以外の世界を体験できたことは新鮮でしたし、蜷川さんとの出会いも大きかった。『許されざる者』の李相日監督はとても厳しく、ストレートに叱ってくれた。『闇金ウシジマくん』の山口雅俊監督は、僕が提案した役づくりのアイデアを面白がって受け入れてくれた。そういった積み重ねが、だんだんと形になってきたところです」

 最近では柳楽がカンヌで受賞したことを知らない若いファンも増えており、そのことがうれしいと語る。

 「宮藤官九郎さん脚本のテレビドラマ『ゆとりですがなにか』(2016・日本テレビ系)や福田雄一監督の『銀魂』(2017)で僕のことを知ったファンもいて、カンヌのことは後から知るみたいなんです(笑)。『誰も知らない』の頃から応援してくれている方と、新しいファンの両方いることが、今の僕にとってはすごくいいバランスです。もちろん、是枝監督の『誰も知らない』でデビューし、カンヌで受賞したことは感謝しかないのですが、その後いろんな体験をしたことで、そのありがたさを実感できるようになりました」

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柳楽優弥
今年は映画『ザ・ファブル』『泣くな赤鬼』など新作が続々待機中。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』で声優も!

 広瀬監督の『夜明け』では、柳楽演じるシンイチは周囲からの期待を重荷に感じて苦しむことになるが、かつての柳楽自身と重なる部分も。『ディストラクション・ベイビーズ』でその年の主演男優賞を席巻するなど、俳優として新しい役に挑み続け、手応えを得た今だからこそ、演じることができた役だと言えそうだ。もっと芝居がうまくなりたいという柳楽に、最近観た映画について尋ねると意外な答えが返ってきた。

 「海外に行くと、柔道や空手を習っている外国の方が多く、日本人なのに日本の伝統文化の話について行けないんです(苦笑)。それもあって茶道を教えている知人から、お茶を習っているところです。『日日是好日』を観ていたら、樹木希林さんのセリフの一言一言が胸に響きました。茶道を学んでいる人は、同じところで叱られるんだなって」

 ちなみに茶道の映画があれば出演したいか? の問いには「いえ、今は観る方が楽しいです。茶道って、撮影以上に緊張するんですよ(笑)」とのこと。

 演技に関するストイックさと大らかに笑う茶目っ気とが、バランスよく同居する28歳の柳楽優弥。『夜明け』では、俳優としての成長ぶりを目の当たりにするはずだ。(取材・文:長野辰次)

映画『夜明け』は1月18日より全国公開

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