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斎藤工、ウルトラマンに投影した素の自分 庵野秀明&樋口真嗣のイメージに肉体捧げる

地球人なのか外星人なのか斎藤工演じる主人公・神永新二
地球人なのか外星人なのか斎藤工演じる主人公・神永新二 - (C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ

 庵野秀明が企画・脚本、樋口真嗣が監督を務めた映画『シン・ウルトラマン』が公開を迎えた。本作で、“ウルトラマンになる男”にして、人間なのか、外星人なのか多くの謎を秘めた主人公・神永新二を演じているのが斎藤工だ。あえて「味つけをしない」と臨んだ役へのアプローチ方法や、「ウルトラマン」に深い縁を持つからこそ「たぎる気持ちを抑制した」という作品への思いを語った。

映画『シン・ウルトラマン』公開記念特別映像

たぎる思いを抑えて

 父が「ウルトラマンタロウ」の現場で仕事をしていた関係で、幼少期からウルトラマンに慣れ親しみ、ウルトラシリーズで演出を務めた実相寺昭雄監督から直接「ウルトラマン」にまつわるエピソードを聞いた経験を持つなど、作品に対して並々ならぬ思いがあることを明かしていた斎藤。しかし、これまで俳優、そして映画監督として作品に向き合うなかで、常に「観客の視点」を忘れてはいけないという思いもあっただけに、あまり「ウルトラマン」と関わる高揚感を投影しすぎることは、本作にとって良いことではないとも感じていたという。

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 「もちろん、最初に企画書をいただいたときには、庵野さんや樋口監督ら製作陣の強い気持ちを感じましたし、胸のたぎるような思いが湧いてきました。でも逆にその感情を伏せることが、作品に奥行きを持たせることになるのかなと思ったし、僕がキャスティングされた理由なのかな、とも感じたんです」

 斎藤が演じる神永は、巨大不明生物・禍威獣(カイジュウ)災害対策の専従組織「禍威獣特設対策室」(通称・禍特対)の作戦立案担当官。地球人なのか外星人なのかも曖昧な、ミステリアスな一面を持ち、観客が多くのことをイマジネーションできる余白を持つキャラクターだ。逆に言えば、いかようにでもなるキャラクターだけに、つかみどころは果てしなく広がる。

地球人らしくない自分

(C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ

 「『ウルトラマン』という非常に分母の大きな作品なので、いろいろな映像資料や文献はあるのですが、外星人と人間の狭間の存在という部分に関しては、僕が阪本順治監督の『団地』(2016)という映画で、地球外生命体のようなキャラクターを演じたときのことがヒントになっていました。当時、阪本監督が小さな居酒屋で、いかに僕が地球人っぽくないのかを熱弁してくださったんです。僕としては自然に振る舞っている対人関係なのですが、例えばあまり瞬きをしないとか、間合いの取り方とか、それが人から見ると異星人のように映るみたいで……」

 俳優としてのキャリアを投影して役をつくる以上に、自身が持っている素の自分が、神永役には必要だと感じたという。「ゼロからなにかを作るというよりは、一人の人間として生きてきた時間を大切に、味つけをしないで臨みました。その意味で、今回の作品は庵野さんや樋口監督ほか、製作陣の持つ“ウルトラマンに変身する男”という多角的なイメージの中央に肉体を捧げるという感じだったので、意見交換もできましたし、いつものように孤独な作業ではなかったです」

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俳優に語れること

(C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ

 禍特対をはじめ、物語の舞台となる世界観を想起させるために、キャストにはあらゆる資料が配られたという。役へアプローチするヒントとなる資料。それは斎藤にとって、よりスタッフ陣の作品への思いを伝える存在でもあったようだ。

 「『禍特対』の業務内容について、さらにはこの世界線における日本、霞が関(中央官庁)がどうなっているのかなど、膨大な参考資料が配られていました。特に(滝明久を演じる)有岡大貴くんは、とんでもない量だったと思います。でも、俳優陣にこれだけの資料をくださるということは、美術装飾さんやヘアメイクさん、衣装部さんには、さらにすさまじい量の資料があったはずなんです」。

 細部に渡る製作陣のこだわりと、そのために費やした時間。そうした準備段階を経て、最後にやってくるのが俳優だと強く感じた現場だった。

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 「ゼロから作られていく過程のなか、監督をはじめ製作陣が、練って練って練って作り上げたものの最後に、俳優はキャスティングしていただき現場に入っていく。言ってみれば、職人さんたちが時間をかけて作り上げた船に僕らは乗ってくる。その意味では、あまり僕らが語ることができるものはないんですよね」

特撮は「大いなる財産」

(C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ

 技術の進歩によって、壮大な映像体験を味わえるようになった現在。本作でもさまざまな技術を駆使した撮影が行われているが、それ以上に観客に訴えてくるのが、特撮という文化への熱い思いだ。

 「(共演する)西島秀俊さんも仰っていましたが、特撮という文化は、日本の映像界においても大いなる財産だと思います。レンズにワセリンを塗るなど、さまざまな創意工夫で人々に夢を届けてきたという歴史に対して、庵野さんや樋口監督らがリスペクトしながらアップデートしていくモノ作りは、未来につながっていくと思います」。

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 ウルトラマンや禍威獣、外星人というファンタジックな存在を扱いつつ、気づけば自分たちの生活と地続きになっている物語。そこには作品の持つメッセージ性も強く含まれており、だからこそ斎藤は、作り手から“思い”を発信することへの怖さがあるという。

 「“映画は観た方のもの”というのはその通りで、特に『シン・ウルトラマン』には、強くそのことを感じます。だからこそ、僕が作品に対して言語化してしまうことによって、失われてしまうものがあるという怖さがあります。もちろん、宣伝活動は俳優の責務だと思うし必然なのですが、この作品を伝えることは非常に難しい。これまでいろいろな作品に携わっていますが、こんなにも特殊だなと思った作品はないです」。

 そのうえで、あえて言葉を絞り出した斎藤は、最後に作品について一つの思いを語った。「集団の調和よりは個人という流れになっていく世の中において、失ってしまっていることに気づいていない大事な一つの概念を、この作品のなかで描いているなと感じました。暗いからこそ輝くなにか……。いみじくも、いまのこのタイミングに公開されることに意味を感じる、とても優しい作品だと思います」。(取材・文:磯部正和)

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