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新海誠監督の映画を旅する~実際の土地と青春キャラを巡る

天気の子
『天気の子』(C) 2019「天気の子」製作委員会

 新海誠監督の名前を一躍知らしめた映画『君の名は。』(2016)から約3年、最新作『天気の子』(7月19日公開)が公開されます。そこで歴代の新海作品の特徴や見どころ、モデルとなった実際の土地や登場人物などを今一度振り返ってみよう。(川上大典)

時間と距離を超えた一途な思い。『ほしのこえ』(2002)

モデルとなった土地:(近未来の)埼玉(さいたま市ほか)

主な登場人物(声優):ミカコ/長峰美加子(篠原美香/武藤寿美)、ノボル/寺尾昇(新海誠/鈴木千尋

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ほしのこえ
『ほしのこえ』(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

●『君の名は。』に通じる新海監督の原点!?

 恋は、時間と距離を超えます。新海スイートビター(甘くて苦い)とでも例えられるような、ヒロインの純粋性や、巧みなストーリー展開と、主人公の淡く切ない恋心、魅せる構図、きれいな美術背景などが光る映画です。商業ゲームのオープニングムービーなどを制作していた新海監督が、監督から作画まですべて1人で作り上げたという作品で、だからこそできる実験性や、芸術性が出ていると思います。

 今観てみると、電子メールを使用したりするなど、「SF」「孤独」「きれいな風景」「青春」など同監督の「君の名は。」と、とても通じるものがあります。原型というべきか、新海監督の原点のような設定と世界観があると思います。新海監督の初の劇場公開作品で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門特別賞などを受賞しています。

●恋とはいったい何だろう?普遍的なテーマ

 この映画ですが、メインの舞台は、近未来のさいたま市で、携帯電話(?)の電子メール(劇中では、20世紀のエアメールみたいなものと言及されています)を用いて、主人公の長峰美加子(国連宇宙軍のタルシアン調査隊の選抜メンバーに選ばれたことで、遠く離れていく)が、時間と距離を超えて、思いを寄せている寺尾昇と切ないやり取りをするという話です。

 「運命の糸で結ばれている」というのは、少女マンガなどではよくありますが、そういった「センチメンタリズム(感傷主義)」や、「絆」という普遍的なテーマをきれいに描いていて、「恋とはいったい何だろう?」と、考えさせられるような映画作品です。特に、「美麗な風景」と「恋愛の切なさ」は、多くの視聴者の心をつかんだのではないでしょうか。

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夢と約束と現実。『雲のむこう、約束の場所』(2004)

モデルとなった土地:青森(ただしパラレルワールド)

主な登場人物(声優):ヒロキ/藤沢浩紀(吉岡秀隆)、タクヤ/白川拓也(萩原聖人)、サユリ/沢渡佐由理(南里侑香

雲のむこう、約束の場所
『雲のむこう、約束の場所』(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

●甘くてほろ苦い青春SFアクションエンターテインメント

 「甘くて、苦くて……いや? ほろ苦い」、そんな、青春の味がしつつも、SF、アクション、恋愛など盛りだくさんで、エンターテインメント性に富んだ作品……というように、『雲のむこう、約束の場所』は、新海監督のイデオロギーが爆発しています。また本作は、新海監督の長編アニメ映画の第2作目です。

 前作の『ほしのこえ』と同じように、「SF」や「青春」といった設定があります。SF的な用語が、多数、飛び交います。また、ところどころ、セリフが長くて饒舌な印象を受けるのですが、専門用語も相まってSF的かつ、特撮(アニメですが)の雰囲気に合っており、実に巧みです。宮沢賢治作品などがいくつか登場しますが、それに見合った、文学的に思えるようなセリフもあります。そして、演劇的な部分もあると思います。というように、新海監督は、作画の技術だけではなくて、知識が豊富で、シナリオも書ける稀有なクリエイターだと思います。

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●日本が南北に分断され北海道が占拠されている世界

 映画の冒頭が、物語の時間軸の先端という捻った構成で、切ない結末からのスタートとなっています。この映画は、近代、現実の日本とは違うパラレルワールドの青森が主な舞台です。その世界では、日本は南北に分断されていて、蝦夷(北海道)を占領しているユニオンが、巨大な塔を建設しています。

 その塔にいつか行こうと、中学生の藤沢浩紀と白川拓也は、工場でアルバイトをしながら、飛行機のヴェラシーラを組み立てます。その後、その計画に、クラスメイトの沢渡佐由理も加わります。そして、「沢渡も行くか?」という問いに対して、「うん、行く。行きたい」と、佐由理が返事を返して、ヴェラシーラで塔へ一緒に行く約束を交わしますが……。

 この映画の舞台ですが、青森駅や、JR津軽線沿線の駅や、その周辺と思われる風景が、多数、登場します。新海監督の作品は、やはり、風景の描写が繊細で美しいです。丁寧な作りで、印象的かつ芸術性のあるシーンが、いくつも出てきます。

2度と会えないかもしれない出会い。『秒速5センチメートル』(2007)

モデルとなった土地:東京(代々木ほか)、栃木、鹿児島(種子島)

主な登場人物(声優):遠野貴樹(水橋研二)、第1話「桜花抄」篠原明里(近藤好美)、第2話「コスモナウト」澄田花苗(花村怜美)、第3話「秒速5センチメートル」篠原明里(尾上綾華

秒速5センチメートル
『秒速5センチメートル』(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
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●転居のため、距離が離れた切ない恋の形

 タイトルの『秒速5センチメートル』は、「桜の花びらが舞い落ちる速度」を表しています。この映画は、主に、1990年代前半~後半の日本が舞台となっています。また、『桜花抄(おうかしょう)』『コスモナウト』『秒速5センチメートル』という短編映画の連作という構成になっています。

 『桜花抄(おうかしょう)』では、中学生の遠野貴樹と、篠原明里の、切ない恋の形を描いています。東京の小学校で一緒に過ごしていた2人ですが、明里が栃木に転校してしまい、文通を重ねます。そして、貴樹は、東京から鹿児島に転校することが決まり、「もう2度と会えなくなるかもしれない」と思い、明里に会いに行くことを決意します。

●“待たせる時間”で一途な恋を表現

 『桜花抄(おうかしょう)』の約束の日、関東は大雪で、何度も何度も、長時間、電車が停まってしまいます。悲劇は続き、JR宇都宮線から両毛線への乗り換えの小山駅のホームでは、明里に渡す手紙を風に飛ばされてなくしてしまいます。深夜になり、ようやく貴樹は、待ち合わせの岩舟駅に到着します。明里はまだ、待合室で待っていました。

 この「待って」「待って」「待たせる」という時間が、この先、どうなるのかという展開を期待させます。一途な恋は、この作品でも健在なのですが、しかし、恋とは、「桜の花びらが舞い落ちる速度」、その一瞬を表しているのかもしれません。

 また、続きの『コスモナウト』『秒速5センチメートル』を観ると、アッと驚くと思います。ミュージシャン山崎まさよしの「One more time, One more chance」も、映画と合っていてイイですね。 

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生と死がテーマの冒険ファンタジー。『星を追う子ども』(2011)

モデルとなった土地:昭和の日本(長野)

主な登場人物(声優):アスナ/渡瀬明日菜(金元寿子)、シュン/シン(入野自由)、モリサキ/森崎竜司(井上和彦

星を追う子ども
『星を追う子ども』(C) Makoto Shinkai / CMMMY

●ノスタルジーと都市伝説を表現

 死者を生き返らせたいと思ったことはないでしょうか? この映画は、地下世界の「アガルタ」へ行くという、冒険ファンタジーSFです。

 舞台は、昭和の日本のようなファンタジーの世界です。オート三輪が出てきたり、黒電話を使用していたりとノスタルジーあふれるものも魅力的で、ハイライト(1960年代~1970年代にかけて人気のタバコの銘柄)のようなタバコも出てきます。また、映画に出てくる、サンドイッチがとてもおいしそうです。

 幼い頃、父親を亡くした少女、明日菜は、成績優秀ながらも、父の形見の石を使ったラジオを聞いたり、秘密基地で遊んだりする日々を送っていました。ある日、熊のような巨大な怪物に襲われた明日菜は、「アガルタ」から来たという少年のシュンに助けられます。明日菜が持っていたラジオから流れて来た歌声はシュンでした。また、シュンは、「クラヴィス」という石を持っていて、その石と、明日菜の持っている石が似ていました。しかし、後日、シュンは遺体となって発見されました。そして、明日菜は、地下世界の「アガルタ」を旅することになるというストーリーです。

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●死者をよみがえらせようとする禁忌の恋?

 映画の中で、森崎という教師が、授業で、古事記の一節、日本神話のイザナギとイザナミの話を取り上げます。「日本でいう黄泉の国のような地下世界は、世界中に神話として残されており『アガルタ』もその1つだ」と言い、さらにその地下世界には、「死者を蘇らせる方法」があると語るのです。

 新海監督作品には、オカルトが出てくるものもあるのですが、本作は、「オカルト」と、アーサー・コナン・ドイルの「失われた世界」のような冒険SFのような話です。全体的には暗い感じですが、主人公の少女、明日菜がけなげに動くので、ワクワクドキドキさせられます。しかしながら、ハードなSFファンタジーなので、観る人を選ぶかもしれません。

 「時間と距離を超えた恋」どころではなく、「死者を蘇らせる」という、ある意味では、禁忌で、危険な恋の形まで発展させています。感受性が豊かな中高生の時に観てほしいと思わせる映画です。

雨宿りから始まる恋の物語。『言の葉の庭』(2013)

モデルとなった土地:東京(新宿御苑、千駄ヶ谷ほか)

主な登場人物(声優):タカオ/秋月孝雄(入野自由)、ユキノ/雪野由香里(花澤香菜

言の葉の庭
「劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD」発売中 発売元:コミックス・ウェーブ・フィルム 販売元:東宝
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●男女が思い合う気持ちは時代を超える

 まず、タイトルの『言の葉の庭』に惹かれます。キャッチコピーは、「愛よりも昔、孤悲(こい)のものがたり」です。本作品は、平成の作品ですが、まるで、「令和」を予見していたかのように、「万葉集」に収められた一篇の和歌が出てきます。

 「雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」

 これは、千年以上前の歌人・柿本人麻呂が詠んだ和歌ですが、男女が思い合う気持ちというものは、時代を超えて普遍的なテーマなのかもしれません。このような、時間と距離を超えた恋というのは、いくつかの新海監督作品に通じるテーマだと思うのですが、それが多くの共感を呼ぶ要因なのかもしれません。

●年の差と、授業をさぼって会う、二重の後ろめたさ

 とても「雨」が印象的な映画で、主題歌のタイトルも「Rain」です。思わず、梅雨の時期は、雨宿りがしたくなるかもしれません。それから、美術(光の演出など)が実験的で、音楽もメインがピアノという、アート性が強い映画です。そして、舞台は東京で、主に、新宿御苑周辺です。

 ストーリーは、靴職人になりたいという夢を抱く孝雄が、ある雨の日に、高校の授業をさぼって庭園に行ったところ、昼間からビールを飲み、チョコレートをつまみにする変わった女性、雪野に出会います。そうして、雨の日だけの2人の時間ができるという話です。

 また、この映画に出てくる、オムライスと、ドリップ式のコーヒーがとてもおいしそうです。

 新海監督作品は、文学的だといわれることがありますが、知的だなと思います。『言の葉の庭』は、ストーリーのみならず、作画や音楽、そして主題歌のタイミングなどに細かいこだわりがあって、とてもうまくまとまっている作品だと思います。

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時間と距離を超えた一途な思い。『君の名は。』(2016)

モデルとなった土地:岐阜(飛騨)、東京、長野、秋田

主な登場人物(声優):立花瀧(神木隆之介)、宮水三葉(上白石萌音)、奥寺ミキ(長澤まさみ

君の名は。
君の名は。スタンダート・エディション」発売中 発売・販売元:東宝

●主人公が入れ替わる…ライトなSF&ミステリーに引き付けられる

 2016年に公開された『君の名は。』ですが、「キャラクター」「ストーリー」「美術」「音楽」が特に秀逸で、日本における歴代興行収入ランキングでは、『千と千尋の神隠し』(2001)、『タイタニック』(1997)、『アナと雪の女王』(2013)に次ぐ、第4位(日本映画では第2位)となりました(興行通信社調べ)。

 新海監督お得意の「SF」と「恋」、また、『転校生』(1982)などのジュブナイルの要素を取り入れた作品ですが、これまでの重いSFではなく、ライトなSFにしたことで、より一般性が出たような気がします。それに、ミステリーの要素もあって、最後まで魅せられます。

●都会と田舎の生活感と共に主人公のキャラも見どころ

 キャラクターデザインに、『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013)や『心が叫びたがってるんだ。』(2015)などの、田中将賀を起用。また、作画監督は、『もののけ姫』(1997)や『千と千尋の神隠し』(2001)などの安藤雅司が務めています。そして音楽は、ロックバンドRADWIMPSが担当しており、主題歌として書き下ろしの新曲「前前前世」など、ストーリーと曲が見事にマッチしています。

 また本作品は、第40回日本アカデミー賞の、最優秀脚本賞、最優秀音楽賞、話題賞(作品部門)などを受賞しています。

 ストーリーは、東京で暮らす高校生の立花瀧と、飛騨の山奥にある糸守町に住む女子高生の宮水三葉が、入れ替わるというもので、3年前に、ティアマト彗星が糸守町に落ちているということが、物語のキーポイントになっています。

 とにかく、この映画は、瀧と三葉などのキャラクターが立っていて、深くて、奇跡的で、爽快感もあり、とても魅力的です。

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天気を操る不思議な能力を持った少女と家出少年の恋。『天気の子』(2019)

モデルとなった土地:東京(のぞき坂、高円寺・気象神社、銀座・朝日稲荷神社ほか)

主な登場人物(声優):森嶋帆高(醍醐虎汰朗)、天野陽菜(森七菜)、須賀圭介(小栗旬)、夏美(本田翼

天気の子
『天気の子』(C) 2019「天気の子」製作委員会

●人との出会いを“天気”に着目するなんて!?

 本作は、天候の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄される少年と少女が自らの生き方を「選択」するストーリーです。離島から東京に家出してきた帆高が、孤独の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業でした。

 そして、穂高は、一人の少女と出会います。ある事情を抱え、弟と2人で明るくたくましく暮らす陽菜。その彼女には、祈ることで天気を晴れにできるという不思議な能力があったのです。

 前作の『君の名は。』に続き、劇中の全ての音楽を担当するのはRADWIMPSで、主題歌は、「愛にできることはまだあるかい」というタイトルです。また、女優の三浦透子をボーカリストとして迎え、複数の楽曲を制作しています。

 キャラクターデザインは、『君の名は。』と同じ、田中将賀です。そして、作画監督には、スタジオジブリ出身の田村篤を起用しています。

 また、2,000人を超えるオーディションの中から選ばれた、主人公・帆高役に醍醐虎汰朗、ヒロイン・陽菜役に森七菜が抜てきされ、大きな注目が集まっています。

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●クロスオーバーはあるか?

 さて、これまでの新海監督の映画を振り返ってみて、「きれいな風景」だけではなくて、「SF」や「青春」や「恋」や「時間と距離を超えた思い」など、共通する部分があったと思います(ない映画もありますが)。そこを踏まえつつ観ると、また、『天気の子』の見方もきっと変わってくると思います。

 そして、ファンにはたまらない演出として、『君の名は。』では、『言の葉の庭』のヒロインで古典教師の、ユキちゃん先生が出るなど、クロスオーバーがありました。また本作の主人公帆高がオカルト雑誌のライターということですが、オカルトといえば、『君の名は。』に登場した月刊『ムー』の愛読者で、オカルト好きのテッシー(勅使河原克彦)もいました。彼も含め『天気の子』で『君の名は。』その他作品の登場人物との接点はあるのでしょうか?

 そんなところも含めて、とても楽しみな作品です。

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