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『ロード・オブ・ザ・リング』は何がスゴかったのか

 映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズが再び注目されている。3部作4Kリマスター版のIMAX上映が9月16日からスタートするほか、ドラマ版「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」も Prime Video にて配信中だ。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズは何がスゴかったのか。公開当時の衝撃と、今も変わらない魅力を振り返る。(文・平沢薫)

ニュージーランドのオタク監督がハリウッドを制覇!

Todd Plitt / Getty Images

 ピーター・ジャクソン監督は、今でこそ『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)(以下『LOTR』)3部作、『ホビット』3部作を手掛けた名監督として有名だが、彼が「指輪物語」を映画化することが発表された1997年の時点では、まだ一部の映画ファンにしか知られていない監督だった。

 しかも、それまで公開された彼の映画は『LOTR』とはちょっと傾向が違う。『バッド・テイスト』(1987)、『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』(1989)、『ブレインデッド』(1992)はみな低予算のスプラッタ映画。やっとスプラッタから離れた『乙女の祈り』(1994)が、アカデミー脚本賞にノミネートされて注目を集める。女子高校生2人による殺人を描いた実話を基にした作品で、ジャクソンが監督と共同脚本を手掛けてた。ハリウッド進出作のマイケル・J・フォックス主演『さまよう魂たち』(1996)は幽霊退治コメディー。架空の映画監督のフェイク・ドキュメンタリー『光と闇の伝説 コリン・マッケンジー』(1996)では、製作総指揮と監督のほか、出演もこなしている。

 次に『キング・コング』を手掛けることになるが、同じ年に巨大モンスター映画『GODZILLA』(1998)、『マイティ・ジョー』(1998)が公開されることが発表され、企画自体が頓挫する(『キング・コング』は2005年に、無事にジャクソン監督によって映画化が実現される)。そんな時に決まったのが「指輪物語」の映画化だった。「指輪物語」といえば、誰もが認めるファンタジー小説の金字塔。ジャクソン監督のファンですら、彼が「指輪物語」を撮るのはどうだろう……と心配になるような状況だったのだ。

 ところが、第1作が出来上がると、これが大傑作。第2作『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002)、第3作『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)と、続編になるほど評価も興行成績もアップし、誰もが認める名作になった。ニュージーランド出身の特撮好きのオタク監督が、ハリウッドを制し、世界中に知られる人気監督に。このインパクトは絶大だった。

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脚本と美術に原作オタクが結集!コアな原作ファンも絶賛

左から、フラン・ウォルシュ、ピーター・ジャクソン監督、フィリッパ・ボウエン。Frank Micelotta / Getty Images

 熱狂的なファンのいる原作の映画化は賛否両論になることが多いが、『LOTR』がスゴいのは、コアな原作ファンたちも熱狂させたこと。実は映画は原作そのままではなく、原作と異なる点も少なくない。それでも原作ファンが絶賛したのは、原作の精神、原作の雰囲気が見事に映像化されていたからだろう。

 そんな映画が完成したのは、スタッフたちが原作オタクだったからかもしれない。脚本は、第2作には監督の『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』からの盟友スティーヴン・シンクレアも参加しているが、全3作を手掛けたのは、ジャクソン監督、彼のパートナーのフラン・ウォルシュ、そしてフィリッパ・ボウエン。ジャクソン監督も17歳で原作を読んだ原作ファンだが、脚本家中でもっとも原作オタクなのはボウエンだという。

 そして、映画の雰囲気を表現するコンセプトアートを担当したのは、当時すでにトールキン作品のイラストレーターとして有名だった、アラン・リージョン・ハウ。彼らは映画化に参加する前から「指輪物語」の世界を熟知していた。

 そのうえ、大量の小道具やクリーチャーなどが必要だったので、それらの製作が始まったのは、脚本が完成する前。スタッフたちは、脚本がないため、原作を読むしかなく、原作に詳しくなった。こうして、セリフから小道具までのすべてを、原作ファンのスタッフたちが原作の精神、原作の表現を踏まえて創ったからこそ、原作ファンの心を掴んだのに違いない。

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“「指輪物語」は史実”がコンセプト

ミナス・ティリス。New Line Cinema / Photofest / ゲッティ イメージズ

 デザインについての考え方が、従来のファンタジー映画とはまったく違うのも『LOTR』のスゴさ。ジャクソン監督の映画化のコンセプトは“「指輪物語」は史実である”なので、画面に登場するすべての物体は、実際に存在したものに見えなくてはならない。そのため、あらゆるデザインは、実際に歴史に存在したものを意識して創られた。

 DVDのメイキング映像で、監督やスタッフたちがその具体例を発言。騎馬戦士の国ローハンは、アングロサクソン系、ゲルマン系の意匠を意識し、人間の国ゴンドールはイタリアなど地中海に面した地域の美術を踏まえ、ミナス・ティリスの門はフィレンツェのサン・ジョヴァンニ礼拝堂の門が参考にされた。また、エルフの装飾品は、アール・ヌーヴォーやケルト文化を意識したもの。すべてが、実際に存在した文化や美術を意識して創造されているのだ。このデザイン・コンセプトは、後のファンタジー映画のデザインにも大きな影響を与えている。

 また、この姿勢は、原作「指輪物語」とも共通点がある。原作者J・R・R・トールキンは、学者としては古い英語文学の研究家であり、「指輪物語」「シルマリルの物語」などの中つ国の神話体系は、既存の古代詩や神話、民話伝承を意識して創造されたと言われている。

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ニュージーランドで撮影

今もあるホビット庄。New Line Cinema / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ジャクソン監督は、初めて「指輪物語」を読んだ時から、この世界の風景は彼の生まれ育ったニュージーランドにそっくりだと感じていた。そのため、本作の撮影は、ニュージーランドでのロケが基本。ヘルム峡谷はクライストチャーチで、ロスロリアンはクイーンズタウンで撮影された。ふさわしい場所を見つけて、そこに原寸大セットを作るのだから、リアルな光景にならないわけがない。ホビット庄の撮影セットはそのまま残されていて、今もロケ地を訪問する観光ツアーがあるのは、ジャクソン監督の撮影方針のおかげだ。

 また、ジャクソン監督は、ミニチュアでの撮影が好き。そのため、細部まで精巧な巨大なミニチュアが作られ、ヘルム峡谷のビガチュアは高さ7メートルもあった。そこまでサイズが大きいとミニではないので、スタッフはこれらの模型をミニチュアではなく“ビガチュア”と呼んでいた。

大群集の戦闘を新たに開発したCGIソフトで表現

New Line Cinema / Photofest / ゲッティ イメージズ

 その一方で、『LOTR』は最先端のCGI技術も活用。第1作の冒頭や第2作のヘルム渓谷など、膨大な数の戦士たちによる大合戦を描くため、CGIと人工知能を組み合わせたソフト“マッシヴ”を開発。このソフトにより、数千~数万の兵士がそれぞれ刺激に対して異なる反応をするよう設定し、それぞれ独立した動きをさせることができた。その合戦シーンの人数の膨大さには、今見ても圧倒される。このソフトは今も『エターナルズ』(2021)、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)などでも使われている。

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アカデミー賞を総ナメ!世界中で大ヒット

Albert L. Ortega / WireImage / Getty Images

 その評価の高さは、アカデミー賞のノミネート数、受賞数の多さを見てもわかりやすい。第1作『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)は作品賞、監督賞、イアン・マッケランの助演男優賞を含む13部門ノミネートで、4部門受賞(撮影賞、視覚効果賞、メイクアップ賞、作曲賞)。第2作は作品賞はじめ6部門ノミネートで2部門受賞(視覚効果賞、音響賞)。そしてスゴいのはシリーズ完結となる第3作。11部門ノミネートで、なんと全部門で受賞を果たす(作品賞、監督賞、脚色賞、作曲賞、歌曲賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞)。11部門を受賞し、『ベン・ハー』(1959)、『タイタニック』(1997)と並ぶアカデミー史上最多受賞作となった。

旅の仲間たちと一緒に来日。監督は素足でした。Jun Sato / WireImage / Getty Images

 また、全米興行収入を見るとファンの熱狂ぶりがよくわかる。全米興収の年間ベスト10を見ると、2001年の第1作が『ハリー・ポッターと賢者の石』に続く第2位。2002年の第2作はサム・ライミ監督版『スパイダーマン』に続く第2位で、その下の3位は『スター・ウォーズ/クローンの逆襲』、4位は『ハリー・ポッターと秘密の部屋』。そして、2003年の第3作は堂々の第1位。その下に2位『ファインディング・ニモ』、3位『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』と続く。(ランキングはboxofficemojo.com調べ)

 現在、『LOTR』の数千年前を舞台にした「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」が Prime Video にて配信中だ。『LOTR』に登場したガラドリエル、エルロンドの若かりし頃が描かれているほか、中つ国、サウロンなど、『LOTR』とのリンクも興味深い。すでにシーズン2の製作が決定している「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」は『LOTR』と並ぶ名作になるのだろうか? 『LOTR』ワールドは今も進化し続けている。

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