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河瀬監督らが語る日仏映画合作協定はなぜ必要なのか(3/6)

映画で何ができるのか

フランスの会社に欧州のセールスを任せるメリット

ミュリエル・メルラン
是枝裕和監督のフランス映画『La Verite(仏題・仮)』のプロデューサーでもある3B Productionのミュリエル・メルラン。

ジール:では市山さんにお話を伺いましょう。市山さんといえばジャ・ジャンクー監督作品のプロデューサーとして知られていますが、フランスの会社に作品を預けたことがありますよね?

市山尚三(以下、市山):映画祭で上映されるような映画を多くプロデュースしているのですが、欧州のセールス会社と仕事をすることが多いです。一番の理由は、日本国内の会社にセールスを任せることも可能ですけど、近隣のアジアにはネットワークがあっても、どうしても欧州の小さいテリトリーまでは回らない。そういう時に、信頼できる欧州のセールス会社にアジア圏以外の配給を託した方が収益が上がるというのが、経験上ありますから。

特にアート系作品の場合、「この会社が扱っているのなら信頼できるだろう」というブランドをうまく作ってきたのがMK2で、(海外の)バイヤーにも好印象を与えることができます。もちろんブランドを確立するのはすぐにできるというわけではなく、時間をかけてここまできているという歴史もあります。

いずれにしても娯楽映画は別として、映画祭に出るような映画は、かなりフランスのセールス会社に頼っているのが現状です。

ジール:日本におけるフランス映画の公開状況はいかがですか? 年間40本~50本ぐらい公開していると伺っています。アート系映画の未来をどのように考えていらっしゃいますか?

市山:日本は、世界でも例外的にアート系映画の市場が残っている国だと思います。フランス映画の固定ファンがいまして、作品によっては興行収入1億円ぐらいをあげることができます。とはいえフランス映画の場合は二通りあって、『最強のふたり』(2011)のような娯楽映画は日本で大成功しますが、フランスの人にしかわからないようなコメディーは難しいと思います。

ジール:なかなか興味深い発見でしたね。では素晴らしいフランス映画を製作してきた、いや、もっと言えば、良作の生みの親と言ってもいいでしょう。この人の右に出る者はいません。ミュリエルは今まさに、是枝裕和監督がフランスの名女優たちとコラボレーションする画期的な作品を製作中です。どのようなきっかけで、この素晴らしいプロジェクトが生まれたのでしょう? 

ミュリエル・メルラン (以下、メルラン):わたしが選択したのではなく、向こうの方からプロジェクトがやってきたという、類いまれなる出会いでした。きっかけを作ってくれたのは(是枝作品の)海外プレス担当と海外セールスのワイルドバンチ社です。彼らがプロジェクトを企画し、(『万引き家族』のフランス配給を担当した会社)ル・パクトのジャン・ラバディさんが出会いの場を用意してくれました。そこに(是枝監督が所属する)「分福」のプロデューサーも加わり、わたしたちは1年~1年半をかけて、日本とフランスの映画作りの違いや著作権などを学びました。日本に比べてフランスの方が法的な部分は複雑ですから、それを是枝さんに理解していただく必要がありました。

そもそも今回の企画は、是枝さんが『フランス映画を撮りたい』という思いから始まったものです。是枝さんは往年のフランス映画に対するノスタルジーがあり、是非、フランスの伝説的な女優を演出しながら“映画の中の映画”という構造の作品を作りたいと思っていたそうです。

カトリーヌ・ドヌーヴの名前は、最初から上がってました。彼女は最初こそ「ちょっとね……」という感じだったのですが、是枝さんは非常にインテリジェンスな方で、ドヌーヴさんと10回ぐらい会う機会を重ねて、良好な関係を築いていき、是枝さんがパルムドールを受賞する前に出演を快諾していただきました。その後にジュリエット・ビノシュの出演が決まったのですが、彼女はそれまでにもさまざまな国の監督たちとの経験がありましたから問題はありませんでした。そこにイーサン・ホークが加わって、脚本を円熟させていきました。

是枝さんがフランス語をわからないというのは、何の問題にもならなかったですね。なぜなら脚本が醸し出すもの、そのものがユニバーサルなものですから。是枝さんが長けているのは、作品を観たあらゆる国・人種の方々に、同様の感情を想起させることができるということ。ユニバーサルということですね。彼の作品は映像から人間の感情が溢れ出ています。今回もそのような作品になることを目指しています。

>次ページは「助成金を頼りする資金調達」

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